1 「公」>「私」
「公用」は、「私用」に優先する、「公職」は民間の職業よりも社会的地位が高いと思われているように感じられることがあります。しかし、「公」は「私」に優先し、あるいは社会的地位が高いと言えるのかについて考えてみました。
2 語句の意味
先ず、「公」と「私」の意味について、広辞苑(第7版)によれば、「公(コウ)」は①おおやけ、国家②社会、世間、おもてむきなどの意味があり、「私(シ)」は個人の一身・一家に関すること、わたくしの意味があるとされています。つぎにこの2つの漢字の二文字熟語の中での対義語をみてみましょう。例として、㋐公益と私益、㋑公道と私道、㋒公立と私立、㋓公募と私募、㋔公憤と私憤、㋕公事と私事、㋖公費と私費、㋗公人と私人、㋘公設と私設などです。これらの対義語について、「公」の字のつく熟語と「私」の字のつく熟語の意味を考えた場合、「公」の字のつく方が、常に優先し、社会的価値において高いとはいえません。㋐は利益を受ける主体の違い、㋑は道路の設置者や管理者の違い、㋒は学校などの設置者の違い、㋓は資金の集めた方の違い、㋔は憤りの内容の違い、㋕や㋖は仕事や行事の内容や費用の負担が国あるいは自治体か私人かの違い、㋗は公務員かそうでない(会社員など)かの違い㋘は施設の設置者の違いです。これらの対義語については、どちらかが優れているとか、社会的地位が高いという意味はないと思われます。
3 法律の中の区別
ところで、法律の世界では、「公」の方に対して特別の規定を設けている場合があります。例えば、刑法には、公務員がその職務に関して、金品を受け取ると賄賂(わいろ)罪により処罰されます。これは公務員の職務の公正及びそれに対する社会の信頼の保護のために規定されているのです。一方会社員の職務については、会社のために利益を求めるのが当然ですから、会社員が特定の人から金品を得ても会社に利益をもたらすのであれば問題ないからです。なお、会社員が金品を得て会社に不利なことをして損害を与えた場合には背任罪に当たる可能性があります。
次に、文書には、公文書と私文書があることはご存じと思います。公文書とは国または地方公共団体の機関、または公務員がその職務上作成した文書です。分かりやすく言うと国や県・市町村の職員(国家公務員と地方公務員)がその仕事のために作った文書ということです。仕事に関係しない個人の日記などは公務員が作成していても公文書ではありません。一方、私文書とは公文書でない文書とされています。この2つの文書は法律上いろいろな面で違いがあります。先ず、偽造の面からは公文書偽造は、1年以上10年以下の懲役とされており、私文書偽造(3月以上5年以下の懲役)よりも重い罪になります。これは、文書は社会生活において重要な機能を果たしているところ、公文書の方が私文書よりも社会一般での信用性が高いため、それを保護するために、刑事罰が重くなっているからです。公文書の方が、私文書より内容が優れているということではありません。
4 結論
以上のように、私なりに検討した範囲で考えますと「公」と「私」は、前者の社会的価値が高いとはいえなくて、それぞれの分野において役割を果たしているということではないでしょうか。